第61回<リピーター育成の勘所>

“稼ぐオフィス”には、
顧客が自然にファンになる戦略がある、

“稼がないオフィス”は、
ファンにしようと相も変らぬ戦術をつかう

 「ねえテラサキさん、顧客の囲い込み戦略ってありふれていませんか?」

 確かにありふれています。とはいえ、それを確実に実行できているところは多くないと感じています。やっているつもりはあっても、なかなか実践するには至らないのがこの「顧客を囲い込む」ということです。

 先週のコラムでは、オフィスをいわばショールーム化して、招待客に「買いたい」と思わせるようにするにはどうするかを紹介しました。

 ただ、一度だけの商売では先が細っていきます。やはり継続して何度でも買っていただけるように仕込んでいかなければなりません。

 では、どのようにしたらよいでしょう?
今日は、リピーター育成の勘所とはどのようなものかを考えます。

 たとえば老舗の温泉旅館などが参考になります。
 以前NHK「小さな旅」で紹介された老舗旅館がありました。静岡県熱海市にあるこの旅館は、昭和の初めに開業して、昭和25年の熱海豪雨で一度壊滅的な打撃を受け、その後もバブル崩壊後の何十年にも及ぶ不況を乗り切ってきました。

 継続の極意は何だったのでしょう。

 現在60代後半の女将と90歳になる先代の女将が出ていましたが、彼女たちのことばによると、「ちょっとした、おもてなし」でした。

 毛筆手書きの献立表もそのひとつ。番組では丁度、季節を感じさせる日本画調の「柿」の絵や、「烏賊」という文字をしたためている先代女将を映していましたが、この絵や字を見た客はきっと、安心感や細やかな気遣いを感じるでしょう。

 お品書き一つひとつ丁寧に筆を運ぶ姿を想像し、「おもてなし」をこの宿全体に感じるでしょう。体験した客はきっと「またここに癒されに訪れたい」と思うことでしょう。

 熱海という地は、私も板前の修業時代に一年間暮らしたところです。ちょうどバブル前夜のころでした。昔は「100万ドルの夜景」と呼ばれた栄光を引きずりながら、変わらずに昔のままで、「社員旅行の団体さんが減ったからね」などと不況の言い訳をしていました。

 その後バブルが到来し、昔のままでもそれなりに活況を取り戻し、うまくいくかのように思えました。そこにバブル崩壊後の長引く不況が訪れました。

 私が知っていた老舗ホテルや旅館も保養所さえも、次々に閉鎖、廃業や身売りなどを余儀なくされたのです。そんな中で生き残っている先述の旅館の戦略が、「ちょっとした、おもてなし」なのです。

 なにも特別な、難しいことはありません。さりげない気配り、優しい思いやり、ほんのちょっとした心遣いが、顧客をファンにしてリピーターに育てることになります。

 “稼がないオフィス”は、招待や接待というと、大仰なイベントを開いて客を引き込みます。お金をかけて特別なことをしないと感動させられないと考えています。

 社員達にもイベントの準備をさせます。日常業務にプラスして、残業までさせて招待会を企画したりしています。

 招待会のイベントの時には、社員達を受付周辺に待機させて来客を歓迎するよう指示します。しかし、日常はと言えば、誰もいない受付に呼び出し用の電話がひとつあるだけです。「御用の方は担当を呼び出してください」とそっけない応対で平気です。

このような受付に「おもてなし」の姿勢を感じる事ができますか?

 “稼ぐオフィス”は、ほんのちょっとした気遣いを示します。
来客応対の場面なら、受付電話を来客にさせて煩わせたりはしません。

 あらかじめ約束時間を決めているなら尚更、約束の時間の少し前には受付にて待ち構えます。「あなたをお待ちしておりました」というメッセージをさりげなく伝える術です。

 見送り方もまたしかりです。この日の時間を取って下さったことに対する感謝と、パートナーとしての熱意を感じてもらうために、建物のエントランスまで出て見送ります。

 こうしたことは、売れっ子のホステスさんもしていることです。帰りの客のタクシーが、角を曲がるまで、ずっと名残惜しそうに見送る。振り返って車窓から、ネオンに溶けるその姿を見た客はもう彼女のとりこです。

 何も難しいことを社員教育する必要はありません。基本は、サービスを誰もが当たり前にできるようにすること。そして、社員本人が「自分にして欲しいと思うこと」をおもてなしとして追加するオフィスの仕組みを入れることで、このちょっとした気遣いが生まれます。

 どの顧客にも「おもてなし」をする必要はありません。
優先客を絞り込み、その顧客にありったけの力を集中することです。

 業務を単純化し、顧客を優先順位分けして、その顧客が喜ぶ仕方でもてなしをするのです。オフィス機能に、彼らとの双方向のコミュニケーションができる仕掛けをします。

 年に一度、半期に一度、四半期に一度、月に一度、週に一度のように、優先客のための招待会を開くのに、大袈裟なイベントは不要です。

 それよりも、あなたの会社が顧客を大事にする「いい会社」であることを示す機会と捉えて、繰り返し招待できる企画を練る環境を仕組み化することが大切です。

 ですから、リピーター育成の勘所と言えるのは、
「優先客に集中して、もてなす接触回数を増やすこと」ということです。
そのようにすることで、顧客をファンにしてリピーターに育てることができるでしょう。

あなたは、囲い込み戦略を効率的に行える仕組みを取り入れていますか?
それとも、特別招待会のようなイベントに時間とお金を浪費しますか?