第57回<競合他社との協同>

“稼ぐオフィス”には、
競合他社も安心する魅せるオープンな場がある、
“稼がないオフィス”には、
「立ち入り禁止」で顧客までも遠ざける

 
 先週に続いて、競合他社との協同についてお伝えしましょう。

 同じ「招待会」でも、手順は異なります。優良顧客は自社で囲い込み、新規見込み客は他社のリソースを利用することが、競合他社向けのヨビコミのメリットです。

 オープンなマインドを演出し、競合に魅せるべきスペースを見せ、セキュリティは万全にすること。全体を見せて、入り口は広くしますが、決して見せない重要事項を最初から決めておくことが重要です。

 目的は、彼らの協力を仰ぐことです。何も競合する、同じ製品やサービスばかりではありません。互いに補い合える分野もあるのです。それを提案して一緒に開拓することです。

 ボスである社長は、業界の集いのように、競合他社のボスたちと話し合う機会があるものです。それぞれの会社の取り組みや成功事例を発表するなど、情報交換をします。このときに、「うちのオフィスで新規開拓を突破するための実験をしませんか?」とヨビコミます。

 お互いの優良既存客の情報開示をすることは、コンプライアンス的にもNGでしょう。しかし、こと新規開拓という未取引の客に対してであれば、実験的に試す提案を持ちかけることができるのではないでしょうか。

 私の経験ですが、ある会社の移転案件での話です。
 その会社は立ち上げ時からの付き合いで、拡大するたびに特命でお仕事を戴いていました。オフィス変更プロジェクトのすべてを任せてもらっていたのです。

 ところが、この度は「他も使ってみろ」という社長からの指示で、競合他社も呼ばれてしまいました。ガチンコでコンペをすることもできたのですが、クライアント担当者と相談して、2社とも採用してもらえるようにしたのです。どうやったのでしょう?

 社長の意図は「いつも同じところの提案ではマンネリ化する。他社の提案を試してみたい」ということでしたので、「提案」の部分を分離したのです。

 クライアントの了承も得た私は、競合他社のオフィスへ出向き、担当営業やデザイナー、そしてそこの社長へ“協同”を申し入れました。もちろん相手の利益も図ります。

 「提案」だけではなく、移転プロジェクト「進行役」もその会社に任せ、内装と家具の調達を私を通してもらうこと。そして、運用面では私が担当し、次のプロジェクトの時にはその会社と連携することなどを提案して、快諾してもらいました。

 その後のプロジェクトも和気藹々と進み、素晴らしいオフィスが誕生しました。

 内容は“稼ぐオフィス”とは違いますが、競合と競い合う余計な手間暇をかけずに、クライアントとの打ち合わせに集中することで、“協同”から時短にもなり成功したのです。

 この“競合”他社とはその後の他の案件においても“協同”して、クライアントの益を最優先できるプロジェクトを行うことができました。

 “稼がないオフィス”は、せっかくの招待会を次につなげる事ができません。まず、競合他社は排除の対象です。顧客でさえ、日常業務の中で別の顧客の情報が漏れることを恐れて、「ここから先は立ち入らないでください」と足止めをします。

 訪問者は、本当はこの企業の企画やデザイン、開発している技術などが参考になるのではないかと期待して来社しています。にもかかわらず、オープンな場を限定しています。

 セキュリティは重要ですが、これでは全然「魅せるオフィス」ではありません。来客もがっかりするでしょう。意見交換もアイデアも限定的になることでしょう。

 “稼ぐオフィス”は、招待会を最大限利用して、優良顧客をファン化することに加えて、競合他社もヨビコミ、新規開拓の打ち手を企画します。

 具体的な競合他社向けのヨビコミの仕掛けとは、自社にて、見込み客ターゲットリスト作成します。そして、ヨビコミの準備として、自社の「強み」と「弱み」を見極めて、「弱み」を補う競合他社を選定します

 そして、彼らのメリットに焦点を当てて企画します。彼らを招待する日には、顧客情報は整頓して、オフィスの目につく場所には置きません。アナログではありますが外部への情報漏れは防げます。心もオープンにして、ヨビコミ→提案・共創・商談化→実行→収穫の手順で行います。

 朝の報道番組のコーナーで、ある生保の社長が出演していました。生保業界というのは従来「万が一のために金銭的な補償をする」というのが主な商品です。しかし、現在では「認知症アプリ」などの「疾病重症化予防」をサービスにして、顧客獲得をしていると紹介されていました。昨年オープンさせたイノベーションセンターで取り組んでいるとのことでした。

 このヒントになった「アイデアは交差点から生まれる」という本があります。

 この本に引用されている考えが、“稼ぐオフィス”にも啓発を与えてくれます。

 人を採用するときの心得として、「自分を居心地悪くする人間、違和感を覚える人間、好きになれない人間こそ採用すべき人材である」と述べています。

競合他社の存在とは、正にこのようなものではないでしょうか。

 また、「必要でない人材を採用すべきだ」とも言います。なぜなら、いまある職務を果たすために採用された訳ではない人ほど、新しいことをやってのける可能性が高いからです。

ただし、注意しなければならないこともあります。

 具体的にターゲットを絞り、協働する理由をはっきりさせて、互いの対立を避けて、互いのアイデアが公平に扱われる、オープンな環境を整える必要があるということです。

 思考パターンに偶発性を持ち込み、普通では考えられない組み合わせを意図的に見いだすには、結びつきがありそうもない場所で、手を組むはずもない立場の人々が、結び付いて、新しい価値を共創することができる、といった化学反応を起こす実験場が求められます。

 “稼ぐオフィス”の役割は「競合他社も交えて、発見したパズルのピースを集め、はめていく場」です。そうすることで、自社に不足しているリソースを補ってもらい、同時に他社の提案力も磨いて、アイデアの質と量の相乗効果を狙うことができるのです。

 積極的に顧客との共創をするための、競合との協同という行動力や発信力も有効なのです。

 そうはいっても、自社内でも営業部を強化していく必要もあります。
 次回は、顧客の信頼を勝ち取るために必要な営業とはどんなものかを考察します。営業部の若手の育て方と、内勤者の戦力化に役立つ営業術をお伝えしたいと思います。
ぜひ楽しみにして頂けたら幸いです。

あなたには、競合をもファンにするヨビコミの仕掛けがありますか?
それとも、かれらを敵とみなし戦い続けて顧客まで遠ざけますか?