第18回<間違いだらけの「適材適所」>

“稼ぐオフィス”は、
よい習慣と適度な緊張感を仕掛ける、

“稼がないオフィス”は、
悪い慣習とムダな快適性に金を賭ける

 今回は<間違いだらけの「適材適所」>についての考察です。

 よく聞く言葉に、「適材適所」という四字熟語があります。一般論としては、「ある業務の特性に合う技能を持つ人が、その業務を行うこと」だと言えます。

 営業であれば、「コミュニケーション能力が高い」とか「数字に強い」「人脈作りに長けている」といったことですし、経理であれば、「商業系の学校を出ている」とか「簿記を習得している」といったことになります。また、経営企画やマーケティングであれば、理論を学び、「MBAを取得している」などが選任対象になっています。

 では、果たしてこれらの適材が、本当に力を発揮しているでしょうか?
「あいつ使えないな・・・」という言葉を耳にする機会が多いのはなぜでしょう?

 かつての私の部下たちも実にユニークでした。

 一日の訪問件数がダントツで多い人。愛想無しなのに仕事はとってくる人。一社訪問するたびに帰社してしまう人。客受けは良いのに営業成績が芳しくない人。それぞれの良いところを組み合わせて、団体戦で売れていました。

 ところが、個人の実績は良い・悪いがはっきりしていたため、評価は低いものでした。部は解体され、「もっと売れるように何とかしろ!」という上司がいる部に散っていった部下は辞職しました。

 彼は、数字には弱かったのですが、提案書づくりはうまかったのです。私は彼に良く資料作成を依頼したものです。外回りは苦手でも、内勤営業なら力を発揮できたのに、実にもったいないなと感じました。

 全社一丸となって顧客へのサービスに取り組むなら、個人の成績などある意味どうでもよく、全社の利益が向上すれば問題ないと思うのですが、昭和営業の精神、慣習というものは根強く、改革するのは難しいものです。

 「あいつは売れる」「あいつは使えない」「適材を営業として雇え」といつまで経っても属人的な営業方法です。

 中小企業は大抵、新人の時の適性で、決められた部署に長く在籍することになります。大企業のように、異動で畑違いの部署を渡り歩かせて、経験を積ませる訳ではありません。ひとつの部署で多くを経験して、深い知識を得、その道のプロフェッショナルになる人もいます。

 だから悪い事ばかりではありません。でも、会社全体の最適を考えた時に、偏った見方や、狭い視野で物事を処理する人の集まりは、良いことだとは思えません。人間は個性的で多様です。

 もっと彼らの力を発揮させる方法があるはずです。

 “稼ぐオフィス”での適材とは、
「会社員としてふさわしい人、経営者が意図していることを素直に実行してくれる人」つまり、野心を抱かずに、経営者の意図を実現する人です

 人の心は深い井戸の水のようなもので、汲み上げることは難しいのです。ですから、表面上の人柄、性格、見た目、好き嫌いによって決めることなく、その人の持つ能力、意欲、姿勢を考慮して選任することが肝要です。その人を適所に配置します。

 適所に配置するとは、内勤営業化するのに適した人に、「接客」という刺激的な経験を積ませることです。見えないお客様相手ではなく、お客様と接する機会が多くなると、「他人事を、自分ごととして考える、良い習慣」が身につきます

 これをするためには、明確な方針を示し、誰でも理解できることばを明記することです。

 自社の強みも弱みも知った上で打ち出す、独自性のある方針は、他社には真似できません。

 そのような、社風を活かした戦略を、社員達が実現することによって成し遂げられます。

 この方針づくりをすることが“稼ぐオフィス”の第一段階です。

 “稼がないオフィス”が、なぜ稼ぐ事ができないのかと言えば、「適材適所」という定義の段階で、よく考えずに、「一般論として、あるいは慣習だから」と決めつけているからです。

 視野が狭く、偏見がある働かせ方をしているオフィスに、好奇心や気づきや新たな発見など、生まれようがないのです。

 これに対して、“稼ぐオフィス”には稼ぐ仕組みがあります。本当の意味での「適材」とはどのような人か、その「適材」をどの様に配置したらよいかを決めます。

 これを戦略として捉え、社風と共にオフィスに仕組む、「適材配置の黄金比率」というものです。そして、社員のだれもが理解できるように、社長の考えを方針書に明文化するのです。

 “稼ぐオフィス”を構築するとき、もう一つ注意点があります。
それは、「快適性のあるオフィスをつくる」ということです。

 この点を勘違いする人がいます。表面上の快適性を追求して、家なのか仕事場なのか区別がつかない空間づくりをしています。

 「快適性のあるオフィスをつくる」という大義名分で、ミーティングコーナーやパントリーに、淹れたてのコーヒーや置き菓子、果てはケータリングの食事などを福利厚生で導入したりします。

 ただ高価な椅子や備品を揃えたり、業務改善策を女性社員たちに考えさせて、発表会を開き、それが終了したら、「おつかれ食事会」に連れていきます。

 これが快適性のある働きやすいオフィスだと言うのです。

 営業マンは昼も帰社せず、客先を回って受注しようと頑張っているのに、稼ぎ出さないオフィスの非生産部門が自適なワークライフをしている・・・。

 何か変ではないですか?

 これでは“稼ぐオフィス”にはなりません。会社全体の最適ではなく、一部の社員だけのもの、しかもお客様向けではなく、内勤している人だけのものになっているからです。

 「適材適所」ではなく、ムダなところに人員配置して、ムダな快適性に金を賭けているだけです。

 確かに環境の問題は重要です。劣悪な環境でいい仕事が出来るはずはないからです。

 ただ、リフレッシュという言葉がある通り、一人で熟考して根を詰めた後に、仲間と楽しく会話したり、また一人で調べ物をするために集中したり・・・。

 こういうメリハリが必要です。互いに刺激し合うためには、ぬるま湯に浸かった状態ではだめなのです。適度な緊張感を持たせる仕掛けが必要なのです。

 そうです!厳しくもやさしい環境づくりが大事なのです。

 そのためには、100%の快適性を追求するのではなく、少し負荷をかけることです

 省力便利性があり、清潔で、良い空気のオフィスであることは、社員が働く場であり、商談のためにお客様をお迎えする場として、最優先させる事柄です。

 しかし、家で寝っ転がりながらゲームをする感覚を、オフィスにもってくるのは如何なものかと考えます。仕事場は遊び場ではないのです。

 緊張感を持って、お客様を最優先に考える習慣は、少し不便な環境から生まれます。

 負荷がかかることによって、「自分だったらこうしたら便利になると思うが・・・であれば、お客様にもこの良い方法を提供できないだろうか。」と、ひらめきや発見、気づきがあるのです。

 適度な緊張感を与える仕掛けから、新しい提案が生まれます

 あなたのオフィスは、お客様を迎える、「適材適所」の環境になっていますか?
一般論や慣習を打破して、“稼ぐオフィス”を構築していますか?