“稼ぐオフィス”は
社員と取引先を大事に思いやり、
“稼がないオフィス”は
ガムシャラに新規開拓をさせる
第11回は<「新規開拓が重要!」は本当か>です。
企業が成長し続けるためには、「売上を伸ばし続けること」が必要です。つまり顧客に買ってもらうことが目標になります。
同じ顧客に、何度でも買ってもらうことができれば、何ら問題ありません。ところがこれが儘なりません。
どの企業でも、顧客リストから年々顧客名が消えていきます。この減少を補うために、「常に新規開拓をし続けなければならない」というのがセオリーです。私も営業マン時代に叩き込まれた言葉の一つです。
では、本当にこの言葉が真実なのでしょうか?真実でなければ正解はありますか?正解があるのならどのように行ったら良いのでしょうか?これを考えてみましょう。
ある日の朝礼です。社員全員の前で社長が話をします。
「皆さんも重々承知のように、我が社は今苦境に陥っています。・・・お客様も年々減っていくのは、営業会社にとって宿命なのです。ですから、勉強して自分に付加価値を付けて、新規を開拓していけるように努力をして下さい。・・・」
そして、朝礼後の幹部会議においても社長が語ります。「営業一部は既存のお客様が多いから、訪問件数もまずまずで、商談発生率もいいな。二部は既存客が少ない分、新規をもっと頑張ってもらわないとな。そうは言ってもこのご時世、なかなか会ってもらえないだろう。きちんと提案書を作って、アポイントを取らせて、計画的に新規開拓するように、部下への指示をしなさい。」
「とにかく営業はお客様に会ってなんぼ」
「提案することは営業マンの務め」
と、命令ともボヤキともとれる曖昧な指示を出します。
営業部長は部会で部下たちに吠えます。
「提案書作って、アポイント取って、軒数を回るために9時には会社を出るように。夕方までは戻ってくるな!」と発破をかけます。あなたの会社ではこんな光景は見受けられませんか?
この方法で新規開拓するのが、売上げを向上させる目標に合っているのでしょうか?
私はこんなこと、とんでもないことだと思います。
提案するとは、どういうことでしょう。
「提案とは、相手の身になって熟考して、自分ならこうして欲しいなと思うものに、情報を加工して作成するもの」です。
仕事の基本は、「相手の立場になって考えること」です。
昔見た映画、ゴットファーザーでも、ボスが息子に教えるシーンで、同じセリフを言っていました。「相手の気持ちになって考え、相手が何を欲しているのかを知って、次の手を打つことが、ファミリーを存続させるための秘訣だ」という意味でした。
良い提案をするためには、相手のことを知り、会って話を聴き、良い質問をして、言葉に表れない深層を引き出す必要があります。そして「この人のために役立ちたい」、という動機がないと作れたものではありません。
まだ会ったこともない見込み客に何を提案するのでしょうか?
誰かが作った汎用の提案書ですか?
その程度ならダイレクトメールでも良いのではないですか?
また、アポイントを取ってからと簡単に言いますが、自社によっぽどのユニークな商品やサービスがないと、この忙しい最中、時間をつくっては貰えません。それでも冷かしで会って下さるという人は暇な人です。元々不用なんです、見込み客にとっての我が社は。
不用というと語弊がありますが、相手の会社にはすでに、この分野に関する取引先は存在するはずで、特に問題なく取引をしているのであれば、その他の会社からの営業はうるさいだけでしょう。
「何かお手伝い出来ませんか」「お困りごとはありませんか」とか、汎用の提案書をもって「弊社の製品はですね、ここがすごいんです」と訪ねてくる営業マンは、「相手の時間というものをどう考えているのだろう?」と疑いたくなるような、迷惑以外の何物でもないでしょう。
そして極めつけが、会社を追い立てられ夕方まで戻ってくるなという、いじめにも近い下命です。
朝から夕方まで会社にいないなら、いつ提案書づくりやアポイントメントを取ればよいのでしょう?朝7時から9時までの間ですか。夕方5時から残業時間でしょうか。
こんな会社に限って、よその会社に倣って、残業を減らせ!と躍起になっているから始末に負えないのです。
可哀そうな社員たちは、取り敢えず社を出て、自前のモバイル機器を持ち歩き、止まり木である、セカンドオフィス(公園、カフェ、コワーキングスペース、個人カラオケ、レンタルスペース)へ行き、提案書を作成したり、見込み客の手の空きそうな時間帯を見計らって、アポイントの電話を入れたりしています。
そして夕方戻ると、日報やその日受注した商品の発注、売上計上、明日の段取りと間違いない残業です。こんなやり方が効率的であるはずがありません。
それでも新規開拓が必要なのですよね!
ここで少し考え方を変えてみては如何でしょう。
本当に、新規開拓しないなら、売上は向上しないのだろうか?
既存顧客に、買い続けて戴く仕組みは出来ないものだろうか?
そうです、「頑張る新規開拓を不用にする仕組み」を導入するのです。
冒頭の問いに対する正解はというと、
「新規開拓に時間や労力を割くよりも、優良顧客に注力し、水やりが大切である」
ということです。
ではそれをどのように行ったら良いのでしょう?
社員達を会社から放り出すのではなく、
「社内で戦術を練る時間を与え、戦闘できるように準備することに労力を用いさせる。」ように行うことです。
しばらくの間、新規開拓を忘れて、現在取引して下さっている顧客に目を向けませんか?
顧客が目減りするのは当然で、仕方のないことではなく、絆を深め、繋ぎとめる努力を怠っているからに他なりません。そう言った顧客にこそ焦点を当てた提案をするのです。
それも一営業マンに任せるのではなく、全社一丸となって対応するようにするのです。
社員や取引先を大事に思いやる経営者は、「既存顧客が買い続ける仕組み」を導入することを検討することでしょう。そして、互いに利益を向上させて、絆を深めることに腐心します。
そのようにすれば、難しく困難な新規開拓をガムシャラにさせなくても、売上の向上は可能になります。
既存顧客にとっても、自分にして欲しいと思う提案を、して欲しい仕方でしてくれる自社の社員が増えるようなもので、感謝されるに違いありません。
そうすると、心正しい取引先であれば、あなたの会社のファンとして、「あっちの方が少し安いから今回はあっちで買います」と浮気をしたり、「取引先を別の会社にすることにしました」と決別するような不義理はしないことでしょう。
あなたの会社は新規開拓の御旗を揚げて前進あるのみですか?
それとも、稼ぐ仕組みで既存客のファンを増やしますか?