“稼ぐオフィス”には、
業界の多様性を受け入れる共生の場がある、
“稼がないオフィス”には、
自社のみで生き残ろうとする排除の精神が宿る
「ねえテラサキさん、営業部を強化して新規開拓をうまくできませんか?」
強い営業部を組織するために、若手社員の増員を考えている社長からの質問です。
新規開拓をするには、若い力を投入して、一軒でも多く訪問して、面談回数を増やすことで受注に結び付けたいという考えです。
私も、新規開拓には、信頼関係を築くために、面談回数を増やすことが不可欠と考えておりますので、この点については賛成です。
しかしなぜ、営業職は、若手社員や女性を採用したがるのでしょうか?
それは「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる方式」が営業にいまだに蔓延っているからです。
TVコマーシャルにも出てくる「営業とは足で稼ぐもの」と、ひらめ筋が発達した元気な体育会系を求めていることと、見込み客の担当者が男性の場合、女性営業には「会ってみよう」と思うのではないかという、安易な動機も少なからずあるからです。
果たしてその成果はどうでしょう?
古い体質の業界ではいまだ通用しています。若くて元気がある営業マン(ウーマン)は見ていて微笑ましく、「育ててやりたい」と親心のような感情も芽生えるからです。
しかし逆に、パワハラやセクハラが横行していない会社であっても、疲れ果て、心を病み、長期療養や退職していく若者たちがいるのはなぜでしょう?
主に考えられることは、上司に教えられたとおりに活動するにもかかわらず「努力の甲斐なく空振りする」ことを重ねた結果です。燃え尽きてしまうのです。
上司自身は、昭和営業で実績を上げて昇格してきました。でも新しい体質の会社にそのやり方は通用しません。それなのに相変わらず、「努力と根性」を求めたからだと言えます。
では、古いやり方によらずに新規開拓する、どんな効果的な方法があるのでしょう?
今回は、新規開拓の突破力をどこに求めたらよいかを考慮することにしましょう。
強い営業部を例えると、一般的には「軍隊」式になるでしょう。
昔放映された「コンバット」のように、慕われる上官(上司)の命令で、優秀な部隊(若手社員)が自主的に考え、外部から遮断された要塞(見込み客オフィス)に侵入し、勝利をおさめる(取引に至る)といったシナリオです。優秀な若手の突破力が求められます。
しかし、“稼ぐオフィス”の考え方では、「共生」のような集団になります。
共生する生物(アリとアブラムシ、イソギンチャクとクマノミ)のように、相互に助け合ったり、時には片方だけが利益を受け、または寄生するだけのときもあります。
同じ種でも、仲間でもない括りの生物が、自然界では共生しています。ビジネス界でもこのような関係にある会社はありませんか?
そうです、競合他社です。彼らの存在も、一見すると邪魔な存在に感じるかもしれませんが、互いに競り合うことから、新しい価値を生み出し、市場をつくり、共存しています。
彼らも巻き込んで新しい価値を創造できないでしょうか?
“稼がないオフィス”は、競合を目の敵にします。案件のすべてを自社で受注しようと囲い込みます。そして、完全勝利か全敗を喫するという二つの道に賭けています。
これは、顧客の側から見ればどうでもいい戦いです。顧客はそれよりも「うちの会社にとってどうなの?うちの会社のためになるの?」ということが関心事です。
競合を額面通り捉えて、競争ばかりしているから、互いの体力を奪い、若手社員を消耗させてしまうことにつながるのです。「勝ってこい!」の一点張りです。
“稼ぐオフィス”は、競合の良い点や優れたパフォーマンスに目を留めます。それを利用する手助けをします。自社に招待して「見込み客への提案方法」を協議し模索します。
「この分野で手を貸してください。一緒に開拓しましょう」と“協同”に誘い込みます。競合他社の資源も取り込んで突破力を養います。
なにも互いの顧客情報を公開しなくても、“協同”することは可能です。組み合わせによる相乗効果を狙うのです。とはいえ、同業者ならどこでもいいわけではありません。
ターゲットとする見込み客の特性に合わせて、自社では賄えない競合の得意分野を見極め、誰と組むかを検討したうえで“協同”を決めます。
それには、過去のコンペなどで負けたことのある会社の、できる営業にターゲットを定めます。口裏合わせの談合のようなものとは違います。
動機は、互いの得意分野を伸ばし、「見込み客に響く提案」をするコラボレーションです。
こちらの提案に相手が乗ってくれれば、二次的な副産物として、そのテクニックも入手できることでしょう。
このように、自社の営業の提案力に、競合の営業の提案力をかけて、質の良い仕事を提供することから、「顧客志向」の突破力を発揮することが可能になるのです。
“稼ぐオフィス”での“協同”が互いのためになり、提供するサービスの棲み分けも明確になれば、もっと“協調・協力・共同”して業界を活気づけることになります。
日本代表のラグビーチームも、普段はそれぞれ違うチームに所属して、なかには敵味方に分かれていた選手たちが、世界的な大会という大義名分によって結ばれた一つのチームとして、強豪相手にいい試合を繰り広げました。
その感動からラグビーファンも増えて、ラグビー界にとって良い結果が出たのではないでしょうか。
そんな活気のある業界に、若い人たちを迎え入れて、いきいき仕事をさせれば、彼らも自主的に考え行動するよう成長して、強い営業に育つと考えます。
冒頭の質問の答えは「まず、競合もオフィスにヨビコミましょう。増員による自社の営業強化はそれからにしましょう」です。
では、具体的にどうやって競合他社に声をかけたらよいでしょう?
次回は、私の経験も含めて、競合他社を自社に呼び込む方法をお伝えしたいと思います。
ぜひ楽しみにして頂けたら幸いです。
あなたは、競合の良さを見極めてシナジー効果を狙いますか?
それとも、たたき合いの消耗戦へ突入して業界全体を縮小させますか?