第55回<3大機能を回転させる社長に求められる特質>

“稼ぐオフィス”には、
戦略家で大胆な決断をする社長がいる、

“稼がないオフィス”には、
倹約家で判断に迷う人任せな社長がいる 

 

 「ねえテラサキさん、稼ぐオフィスに興味があるので一度オフィスに来てもらえませんか?」ある地方の見込み客からの依頼でした。ただし社長本人ではなく、東京に出張中の代理の方からの連絡でした。

 わたしのコンサルティングを社長が理解されていないと感じたので、代理の方には、「価格、工程、期間」の概要を伝えて持ち帰ってもらいました。

 数日してまた代理の方から電話があり、「費用が掛かるならこの度は中止ということで」とお断りされました。

 たまにこのような行き違いがあるのですが、コンサルタントに相談を依頼し、しかも地方にまで出張させるのに“タダ”で済まそう考えていたなんてビックリでした。その会社自体、相談料をとる商売なのにです。

 しかも地方出張となれば、2時間どころの騒ぎじゃありません。1日がかりです。私の請求した額は、2時間のスポットコンサルフィーと交通経費だけ。サービスで提示したつもりでした。

 ひとを呼び出して、たった2時間のコンサル料も払いたくない、でも“稼ぐオフィス”の相談はしたい・・・。この社長はいったいどういう了見なのだろうと訝しく思いました。

 このような自分の利益しか考えていない方は、そもそも“稼ぐオフィス”の対象にはなりません。「中止ですね、はい承知しました」と電話を切りました。

“稼がないオフィス”の社長に特有なのは、「オフィスの使い勝手は社員がよく知っているはずだから、みんなで話し合って決めろ」「自分たちで出来なければ、オフィスの専門家を呼んで相談しろ」と人任せにするところです。

 とはいえ、権限移譲をするわけではありません。社員達が、専門業者と何度も会合を開き、みんなが納得するように作り上げたプランに口を挿みます。

 「こんなにお金をかけてはいけない」「本当に必要なものを吟味したのか」「社長室はもう少し広い方がいい」など、出来てきたプランを基に、あれこれ注文を出します。

 社員達も「だったら最初から自分でやればいいのに」と文句を言いながら、社長のご意見を追加して、ムダな社長室に金をかけるようになります。そしてがっかりします。口を挿むなら金も出せと言いたくなります。

 これは、社長自身も「正直どう造ったら良いか分からない」ことによります。すると、オフィスのプロに任せればいい、という発想になり、また人任せになるのです。

 ”稼ぐオフィス”には、先見性があり、構想力を持った社長がいます。戦略的に、このような考えを、いつまでに成し遂げるには、いま何を変革すべきか。逆算して計画を立て、それを実行する組織をどうするか・・・。

 的確な判断力と決断力とスピード感をもっているので、「社員達にまずやらせて」などとは思いにも上りません。まずご自身で枠をつくり、その通りに社員達が実現できるように権限を委譲します。責任感から彼らの後ろ盾になり、フォローしてやる忍耐力もあります。

リーダーシップとプロデュース力を兼ね備えているのです。

 そのための、オフィスづくりがよくわからなければ、コンサルタントにやり方を教えてもらおうという謙虚さがあります。

 顧客の利益を先に考えるのもこのような社長です。目的意識をもって、優先させる顧客を定めて、それに先行利益を与えるオフィスにするために、時間とカネを投資するのです。

 優秀な造園家は、現在の庭を隙間なく飾り立てたりはしません。未来の庭全体の景観を構想して方針を決め、逆算して、計画的に、いまの庭を整備し、適切な植栽を施します。

 今回のように、時間がない上、金もかけたくないという社長には縁がありません。移転して、いままでと違うオフィスをつくろうと考えた時、まず行うことは、時間をかけてオフィス構想から戦略を練り、方針書を作成することです。

 コンサルティングを受けて、必要な考え方を学んで、社長の考えを漏らすことなく社員に伝える大変重要な戦略ノートを作成します。社長の未来構想を具現化するために準備するものなのです。 

 その方針書を基に、選抜した社員にまとめ役を任じて、社内外の協力者を組織させ、選抜社員と協力会社で詳細な打ち合わせをした上で工事着工すること。

 また、この期間に優先顧客を招待する「行事」の準備をして、オフィス変革行事を執り行うこと。そしてこの招待作戦を継続させていくことなのです。

 そして、コンサルタントが去っても、自社で仕組みを回し続ける事ができるようにします。これを社長がやらずに、社員がただ闇雲に設計するとどうなるか。今までと変わる事のないただの“事務所”になります。

 代理の社員に「会って話してこい」ではダメなのです。いくら多忙であっても、ご自身で学ぼうと時間を取って、構想をカタチにする術を得ることが何よりも重要なのです。

 ですから、稼ぐオフィスをつくればこの先2倍の利益を得ることも可能になるのに、そのための投資を惜しむような方にはまずお勧めできないのです。

 この5回にわたる連載の中でお話した通り、あなたのオフィスの構想を、
・顧客を成長させるために機能に適した場をつくる
・顧客のために提案をする
・顧客を感動させるために共創へマキコム
・ICT(一致とコミュニケーションと提案)
を発揮させる戦略で、権限移譲と実現する喜びを社員に体験させることです。

 方向性をきちんと示し、辛抱強さと忍耐力をもって、社員に任せる懐の深さが必要です。そうすれば、あなたを信頼する社員達による積極的な行動が生まれ、3大機能が最大限回ります。

 儲かるオフィスを継続させる、意志の強い社長の特質は、きっとあなたにもあることでしょう。

あなたは、まずご自分で学び、権限を委譲する忍耐力を発揮されますか?
それとも、面倒を社員に任せ、ほったらかしにする無責任な社長ですか?