第50回<優良顧客をファンにするには>

“稼ぐオフィス”は、
既存客を囲い込むVIP待遇を仕掛ける、

“稼がないオフィス”は、
新規客獲得のためにVIPを冷遇する

「テラサキさん、優良客ってのは特にこちらから何もしなくてもいつも買って下さるわけですよ。既に我が社のファンなわけです。なぜそれを、わざわざファン化するんですか?それよりも新規に打ち込む方が優先ではないですか?」

 優先客と劣後客を区別して、「日頃から贔屓にして下さる優良顧客にこそ“もてなし”をしましょう」という話をすると必ず出る質問です。

 確かに、攻める営業の考え方はその通りでしょう。競合に既存顧客を奪われ、黙っていたら目減りするのは当然なので、常に新規を狙い、獲得し続けなければなりません。

 そして、確実に落とすためには、営業力を集中して時間と労力をつぎ込みます。

 しかし、新規開拓に集中するあまり、既存客それも優良顧客を疎かにしていないでしょうか?長い間、浮気もせずにお付き合いくださったその顧客も、競合は鵜の目鷹の目で狙っています。

 少し目を離したすきにさらわれることも珍しくない時代になりました。

そんなことにならないようにするにはどうしたら良いでしょう?
今回はここに焦点を当ててお話したいと思います。

 “稼ぐ営業オフィス”の考え方は、まず、優良顧客を囲い込むことから始めます。

 複数いる顧客の中で、最もファンに固定しやすいのは、普段から贔屓にしてくださる顧客だからです。競合他社が狙うのは、それが優良な顧客候補だからです。

  私が営業マン時代、いつも不思議に感じていたことのひとつに、文句を言わない「良い顧客」には、通常価格で提供し、ごねる「悪い顧客」の新規客に対して破格のサービス価格で提供することがありました。

 確かに、会社としては喉から手が出るほど新規は欲しいでしょう。だからといって継続購入してくださる、しかもごねずに買って下さる「良い顧客」の方が優遇されるべきではないでしょうか。

 “稼がないオフィス”は、釣った魚には餌をやらない主義です。開拓するときには、「御社のためになります」「協働できそうな取引先をご紹介します」「お安くしておきます」と、ありとあらゆる手段を尽くして受注します。

 「ぜひ我が社の取り組みを見て下さい」と招待して、社員みんなでお迎えしたり、社内を案内することをします。

 「どうです?我が社と一緒にやりませんか」と誘うまでは間違っていません。しかしその場限りです。

 いったん受注すると、次のターゲットに移りますから、新規だったその顧客は、既存客に甘んじなければなりません。もう興味が無くなってしまった恋人のようです。

 “稼ぐオフィス”は、釣った後に丁寧に育てていきます。きれいな水と上質な餌をやり、優しい言葉をかけながら大切に扱うのです。「良い顧客」にこそ、あの手この手を駆使してVIP待遇をします。

 想像力を働かせ、顧客のために企画力を用います。思いやりと温かさで接客します。顧客への共感力、ふれあいから発想し、アイデアを提案します。それを「利他的商談」にまとめあげて顧客にプレゼントします。「良い顧客」へ、“もてなし”継続の保証を与えます。

 娘が幼かったころ、夜店で金魚すくいをしました。散々追いまわしてすくい上げた一匹の金魚を持ち帰りました。この一匹のために水槽を買うかどうか躊躇しましたが、娘は一週間、バケツにためた水にストローで空気を送り、餌をやって生かし続けました。

 その姿勢に感動を覚えました。「こんな風に世話ができるなら、もっと与えても大丈夫だ」と判断し、必要な水槽だけではなく、仲間の金魚や、金魚が遊んだり休むことのできる小物も揃えてやりました。

 こんなことを考えていると、オフィスも同じではないかと思えてなりません。多大な労苦をして、追いまわして、すくい上げた新規客ではありませんでしたか。

 現在は既存扱いになっているその顧客も、生き延びている間に、いままで以上に、あの手この手で養って、顧客の商売のために提案します。そして顧客の商売を繁盛させることで感動させるのです。

 オフィス変革の行事として、「優良顧客の特別招待会」を企画しますが、この時に「ヨビコミ」「ヒキコミ」「マキコム」ことをしてファン化します。

 「優良顧客の特別招待会」の「ヨビコミ」を、信頼を得て、買いたくなるように仕掛けます。そして、親しみを感じさせて、また来たくなるようにして、「ヒキコミ」をします。

 これは、購入率、再契約を増やすためです。また「マキコム」ために、いつでも相談できる「カルテ管理」の仕組みを導入します。

 最後に、ファン化した顧客からの口コミを誘発します。

 このようなオフィス招待で、一生懸命世話する社員たちの姿勢をみて、優良顧客は感動を覚えます。そして、ファンになっていきます。

 また、感動すると、なにかやってあげたくなるものです。「うちにここまでしてくれるなら、うちのお客様にもしてくれるはず」と思うはずです。ここから取引先の紹介が生まれ、労せずに、新規開拓という結果になります。

 このような仕組みをオフィスに導入するためには、オフィス機能を整えなければなりません。次回から5回にわたり、戦略的なオフィスの3大機能と、それを回転させ続けて稼ぎ出す考え方を連載します。

あなたは、優良顧客を感動させファン化する仕組みが欲しくないですか?
それとも、競合たちとのシーソーゲームで優良顧客が離れていってもいいですか?