第49回<利害関係人へのメッセージ>

“稼ぐオフィス”は、
得手・不得手を融合する知恵を持つ、

“稼がないオフィス”は、
利用価値のありなしを判断する

「ねえテラサキさん、オフィス変革には、利害関係人として誰が対象になりますか?」スポットのご相談で、「“稼ぐオフィス”に変革する」くだりでよくあるご質問です。

 企業にとっての利害関係人、あるいはステークホルダーとは、その組織が企業活動を行うことで影響が生じる、個人や集団すべてが含まれることは、皆さまご存知のことです。

 株主をはじめ、顧客、従業員、取引先、金融機関、広くは地域社会や行政機関まで含まれます。

 「利害関係人を理解する」「利害関係人を重視する」「利害関係人と情報を共有する」「利害関係人に経営者の想いを発信する」「利害関係人へ責任を果たす」など、誰に対しても当てはまる定義です。

 ただこれでは具体的に誰が対象なのか、明確にはなりません。

 では、“稼ぐオフィス”に変革するときに、重視すべき個人または集団とはいったい誰でしょうか?今回はこの点についてお話します。

 利害関係人すべてに向けて、「変革行事」とは、「あなたや会社にとって益のある招待ですよ」というメッセージです。

 個別にみるならば、

 ・顧客へは、「“商談づくり”を企画・提案しますよ」ということ。

 ・仕入れ先へは、「“協力体制”を見直して共に儲けましょう」ということ。

 ・株主には、数字上の報告より、「やる気ある社員が率先して働く環境を“体感”してください」ということです。

 ・そして、大事な社員には、先回お話した、「意識づけ」をした上で、「将来この通りに事が進んだら、あなたにはこんな特典を与えよう。そしてあなたが考える自己実現にも貢献することになる」という“励まし”のメッセージを送ります。

 これらのメッセージの骨格は、「オフィス戦略方針書」です。社長がまとめた方針を発表し、発信し、来て・見て・感じさせることです。

 そして、この中で忘れがちなのが、競合他社である取引先です。

 GAFAなどの既存モデルの“破壊者たち”は論外ですが、日本の中小企業では、昔から競合他社も、ある意味において同業者である仲間になります。

 同じ商品を同じ客に売ろうとすれば、品質や価格で競い合うことにもなりますが、部品メーカーのように、シェアを分け合って共存しているところもあります。

 「納期に間に合わせる」ために補い合う場合がそうです。闘って損失を被ることも、利益を分かち合うことも、この関係には存在します。

 その競合他社にも益を図ってあげましょう。

 お互いに“得手・不得手”はあるものです。相手の得意な領域に飛び込まずに、こちらの得意分野に協力してもらえる関係を築くのです。知恵のある社長は、“得手・不得手”を融合して、敵さえも懐にヨビコミます。

 ホスピタリティで有名なホテルについて書かれた本の中には、「たとえ自社ホテルに宿泊しないとしても、あらゆる良いことをして、顧客を満足させる」ことによって、顧客に喜びを与えることが載っていました。

 あるお客様が電話で問い合わせます。観光シーズンでもあり、どこの宿泊施設もいっぱいです。もちろんここもそうです。では、「満室です。あしからず」と断るでしょうか?

 このフロント係は、「あいにくこちらは満室ですが、少しお時間戴けますか?」と一度電話を切り、同業施設の空室状況を確認して、お客様に電話します。

 「近くで評判の良い旅館に空きがあるようですが、そちらを予約されますか?」。このように、自分のところで満足させられなければ、よそを探してでも、お客様に満足してもらおうという精神です。

 紹介されたお客様はもちろん喜びます。だって、この観光地の宿泊施設情報に明るいわけではありません。せっかく奮発して泊まろうと思ったこのホテルは満室です。

 このホテルを選ぶお客様ですから、宿があればどこでも良いというわけではなく、それなりのグレードのホテルを、また、いちから探さなければならなくなります。「どこにしようか?」と途方に暮れるでしょう。お客様の手間や不安を払拭するサービスと言えます。

 ただ、ここで申し上げたいのは、違う角度の話です。

 ホテルが顧客満足を追求して、いくら探し回ったとしても、まわりの老舗旅館から“総スカン”をくっていたらどうでしょう?

 「うちは空きあるけど、別にそちらから紹介いただかなくても結構」と突っぱねられることも考えられるのです。商売は「持ちつ持たれつ」の関係が大事ですから、自分のところが困ったときだけ頼まれても協力はしません。

 やはり普段から、「ライバルなのに、いつも良くしてくれてありがとう」と、競合にも感謝されるように、互いの益に配慮していることが大切です

 “稼がないオフィス”では、「競合に勝て!」「蹴落とせ!」と号令をかけます。自社の利益中心の狭い心で、外部を利用価値があるかないかくらいにしか考えません。

 この結果が、秘密主義や閉ざされた世界を生み、不正や不祥事の温床になります。これをまた隠ぺいするために、ムダなカネと労力をつぎ込みます。その挙句に発覚していまい「事件」に発展します。経営者は引責辞任に追い込まれ、企業のブランドイメージは失墜します。

 “稼ぐオフィス”の考えは、関係者すべてをワクワクさせるメッセージをもっています。
 顧客や株主、仕入れ先には当然ですが、競合他社にさえも、最初から、隠さずにオープンにできることを決めて、正直にさらけ出します。

 取引先(競合)を「変革行事」の一つの企画に予定して招待します。互いの益を提案して、闘わずに協力者に仕立て上げます。

 メッセージは、

「あなたの得意分野をこうやって成長させませんか?」

「うちのこの分野に、こんなカタチで参戦しませんか?」です。

 競合他社もマキコミ、「新たな企画・提案力」を磨いていければ、自社が損をすることなく、相手の益にもなることを積み増して、最終的に日本社会全体の利益になるでしょう。

 これからの時代は、利害関係人に対する理解と、信頼関係が重視されると言われます。

 利害関係人の中でも、取引先である競合他社の信頼を勝ち得る事ができるならば、顧客以外からも収益を上げることが可能になります。潰し合うのではなく、共栄の道もあります。

 その競合他社へのメッセージこそ、今回お伝えしたかったことなのです。

あなたは、関係者すべてをワクワクさせるメッセージを発信していますか?
それとも、閉ざされた囲いの中で、外部を利用価値くらいにしか思いませんか?