第37回<社員の自主性を促す仕掛け>

“稼ぐオフィス”は、

達成感から喜んで働く社員で儲ける、

“稼がないオフィス”は、

ストレスをためる悪循環に陥る

 事業を行う上で最も重要なことは、継続させることです。ゴーイングコンサーンをするためには,利益を創出しなければなりません。

 規模が小さいときには、自分ひとり頑張ればなんとかなったことでも、人を雇用するようになれば、社員が自主的に動く意欲を持ってもらわないことには困った結果になります。仕組みで稼ぐと言っても、その装置をうまく稼働させるのは人の力になります。

 今回は、<社員の自主性を促す仕掛け>を紹介します。
社員達にどのように自主性を持たせるか、どうすれば進んで実行するように促すことができるかをオフィスの仕掛けで考えてみます。

 “稼がないオフィス”の日常業務には、上からの命令・指示・追及で忙しく働かされる社員がいます。性悪説の蔓延るオフィスで、「あいつら何しとるかわからん!」とばかり、矢継ぎ早に命令を繰り出す社長がいますが、このような環境から、「他の人のため、顧客の必要とするサービス、その先に人々が求めるコトはなにか?」と自主的に考えることは不可能です。

 目の前の自分の課題に忙殺されているため、企画脳もロックされてしまっています。外出先の営業マンも、客先での無理難題に対処できずに途方に暮れている状況です。

 一方“稼ぐオフィス”には、自主性に重きを置くので、追い立てられて雑な仕事をこなすことがありません。

 繁雑な業務があるとしても、チームで取り組み、作業をシンプルにして分担する仕組みがあるため、個人の頭が忙殺されることがなく、常時、頭の隅に顧客のための「記憶のBox」が用意されています。そのBoxには、仲間とのコミュニケーションや上司との対話、顧客との商談などから少し間をおいて「熟成された考え」が生じます。
 「これを、どのように分かり易く伝えることができるだろうか?」と伝え方を工夫して、次回の提案へ活かすようにしています。自主的に考え、その考えを仲間と共有し、新商談をつくるために「創造の場」を設けます。この仕掛けは、オフィスの最適空間の一部です。

 集中することも、意見を発表し合い、まとめることもできる空間にします。壁を取り払い、家具や備品も移動可能な、可変性のあるものにします。そして、分散させたり、集合させたり、ポストイットを貼り出せるボードや小物も揃えます。

 その目的は“交流させるため”です。コミュニケーションを密にする、同じ場所で働くことが不可欠だといえます。

 移動体通信事業のT-モバイル(ドイツテレコム子会社)では、コールセンター業務を見直すことによって、社員達が自主性をもって質の良い仕事を提供するようになりました。

 コールセンターは元々は、お客様のサポートをするためにありますが、近年は客が自分たちで手続きも行えるようになって、業務が減っています。逆に客の手におえない複雑で多様な業務のサポートが増えたために、対処できる人材を採用・確保することが難しくなっています。

 この点で、この会社は、社員の一人ひとりが、「顧客の問題を解決するにはどうするのが一番良いか」という極めてシンプルな問いを日々考えて行動しています。維持率やウォレットシェア、ロイヤルティの改善なども自主的にやっています。

 いちいち上からの命令で動くのではなく、「顧客の満足」というシンプルな目標を置いてやることで、社員が一致しているのです。

 T-モバイルでは、このほかにも優れた仕組みを採用していますが、このコラムで言いたいことは、このような組織にするためには、同じ場所で働くことが不可欠だったという点です。

 1チーム47人で構成されていますが、一人ひとりに精度の高いコミュニケーションツールを買い与え、オフィス内を、客と話しながら移動できるようにして、中心にみんなで集まる場があり、自分で対処できないことがあればすぐに相談でき、顧客をたらい回しにはしません。自分が分からなくて、人に代わってもらった案件については、対処している人の応対をリアルタイムで共有して、自分のものにしていきます。

 この体制を敷いてから、サービスコストは13%削減でき、ネットプロモータースコア50%以上アップ、解約率も最低レベルになったということです。このように、働きやすくするための投資はかかりましたが、それを覆って余りあるROIの向上ができた、と記事は伝えています。

 今は、モバイル機器も充実しているので、働き方もオフィスに限らず多様な働き方が推奨されています。ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)という、働く人の自主性に任せる働き方を勧めるところもあります。

 しかし、良い考えを集めて、加工し、まとめるという、仕事の本質に関することは、人々が集うことによってのみ生じます。決してモバイルワークからは生まれないと考えます。

 人々の交流をスムーズにする仕掛けをすることが、新しい発想や気づきを得させて、働く満足や達成感を与えることになるのです。この達成感というご褒美を繰り返すことで、社員達は自主性をもって進んで行動するようになるのです。

 オフィス環境業者に「社員のモチベーションをアップさせましょう!」と快適で便利そうなオフィスを提案されるかもしれません。しかし、社員のモチベーションはそのようなものからは生まれません。

 逆に少し不便であったとしても、「創造の場」で、同じ場所で働く仲間と、「顧客の問題をどう解決するか」というシンプルな問いを「熟成された考え」でまとめあげて達成感を与え続けることこそ、自主性というモチベーションに肝要なのです

あなたのオフィスには、社員をその気にさせる仕掛けがありますか?
それとも、命令しても、指示しても、追及までしても動かない社員にイラつきますか?